秘密の地図を描こう
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「キラさん!」
その姿を見かけた瞬間、シンは彼の名を呼んでいた。
「元気そうだね、二人とも」
それに彼はこう言い返してくれる。レイとひとくくりなのはちょっと気に入らないが、それでも妥協するしかないのか。そう心の中で呟く。
「状況はだいたい把握したよ。だから、安心しなさい」
キラに向かってラウがそう声をかけた。
「それにしても、珍しいくらいのわがままだったね、レイ」
からかうように彼はそう続ける。その言葉からも二人の親しさが伝わってきた。それでなくても、あれだけそっくりなのだ。無関係だとは思えない。
「そうですか。ありがとうございます」
ふわりとキラが微笑む。
「シンも、彼女を拾ってきてくれて、ありがとう」
彼がその表情を向けてくれただけで嬉しくなってしまう。
「……だって、当然のことでしょう」
敵でも目の前で死ぬのはいやだ。もっとも、これが戦闘中ならば話は別だが、と続ける。
「それに、あいつ、女の子だし……きっと、好きで地球軍にいたわけじゃなさそうだから」
その言葉に、彼は「そうだね」とうなずいてくれた。
「でも、あまり無茶をしないでよ? 今回はギルさんが味方になってくれたらよかったけど……」
そうでなければ、正規の軍人である二人はどんな処罰を受けていたかわからない。キラはそう続ける。
「君がそういうとは……」
少しあきれたような声音でラウが言う。
「僕だから言うんです」
以前、何度も注意をされたから……とキラは苦笑とともに告げる。
「でも、そのおかげで出会った人も多いですし」
だから、あのときの自分の行動を後悔はしていない。彼はそう言いきる。
「でも、そうできたのはアークエンジェルだったから、だと思います。ここは正規の軍とは違っていたから」
良くも悪くも、とキラは苦笑を深めた。
「まぁ、それは否定できないだろうね」
ラウもそれにうなずいてみせる。
「ミゲルが上官とはいえ、フォローできる範囲がありますからね」
さらにニコルも言葉を重ねた。
「そういう無理は、僕たちに任せておけばいい」
二人はザフトの中でがんばってもらわないといけないのだし、とキラは言う。
「幸いと言っていいのかどうかわからないけど、そういうイレギュラーにはなれているから。この艦の人たちは」
苦笑とともに彼は続ける。
「……一番怖いのは、アスランですけどね」
ぼそっとニコルが呟いたセリフに、シンもレイも苦笑を返すしかない。
「まぁ……当分は大丈夫だと思いますが」
今頃、ミーアに振り回されているはずだ。レイがそう言う。
「きっと、あちらでお偉い方々と顔合わせをしているはずですよ」
何かを聞かされているのか。レイはそう続けた。
「まぁ、それくらいは役に立ってもらいませんと」
ニコルがそう言って笑う。
「今、暇なのはアスランぐらいですからね。顔も名前も知られているし、いいのではないですか?」
ミーアもそれがわかっているから引き回しているのだろう。そう彼は続ける。
「僕たちは表に出ない方がいいですからね」
せいぜい、広告塔をしてもらいましょう。彼はそう続けた。
「その間は邪魔されないでしょうし」
それは本末転倒ではないか。そう考えてしまう。でも、確かに彼がいない方があれこれと楽かもしれない。そう考えている自分がいることもシンは否定しない。
「とりあえず、お茶ぐらいは飲んでからかな? あちらに戻るのは」
キラがそう言って笑った。
「はい!」
それはもう、願ってもない言葉だ。だから、シンは反射的にそう返事をしていた。